生産緑地の2022年問題とは

5月 24, 2021 不動産

税優遇措置 さらに10年、生産緑地延長 8割が申請(2021年5月20日 日本経済新聞)
大都市圏の「生産緑地」に対する税優遇措置を10年延長する国の特別制度について、首都圏1都3県で多くの生産緑地を抱える自治体では、2022年に優遇措置の期限が切れる面積の8割近くの所有者が延長を申請していることが分かった。自治体は環境維持や防災のため生産緑地の維持を目指しており、延長申請を後押ししている。

この新聞報道を理解するために、まず「市街化区域」・「生産緑地」について説明します。
大都市圏の都市計画区域は、都市計画法という法律によって「市街化区域」と「市街化調整区域」に分けられています。このうち市街化区域は、「すでに市街地を形成している区域及びおおむね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」(都市計画法第7条第2項)として、農地や緑地を維持・保全するより、開発して宅地や商業施設にすることを目指す地域とされ、市街化区域内にある農地も非農地化を推奨することになり、政府は、市街化区域の農地に対して、宅地並みの固定資産税と都市計画税を課税する方針を取りました。
農地が宅地並み課税になると、固定資産税は従来の100倍以上も増額となるため、農地を非農地化して宅地に供給する農家が増えた。つまり、高度経済成長期・ベビーブームという時代的背景の中、大都市圏の深刻な住宅不足を解消するための政策として、都市部の農地が積極的に非農地化されました。
一方で、農地や緑地が持つ環境保全や地盤保持・保水などの働きによる都市災害の防止の機能を維持するため、都市部の農地・緑地を守る必要もあります。その結果、1974年に「生産緑地法」が制定され、農業を続けたい農家にとって固定資産税等の税負担がその妨げにならないように、一般農地並みの課税に抑える政策がとられました。
さらに、大都市圏の地価高騰と住宅問題の激化の中、1992年に生産緑地法の改正が行われ、市街化区域内の農地は、農地として保全する「生産緑地」と宅地などに転用される「宅地化農地」に明確に分けられることとなりました。この改正により、大都市圏の農地も、特定の条件を満たし、自治体による「生産緑地の指定」を受けた場合は、固定資産税が一般農地並みの課税になったり、終身営農することを条件に相続税の納税猶予が受けられたりする税制優遇措置が取られました。また、税制優遇と引き換えに、農業以外の用途に土地を使えない、建築物を建てられないなどの制限がなされ、「生産緑地の指定を受けて今後30年間営農を続けるなら、引き続き農地課税でいいよ」という生産緑地制度という仕組みとなりました。

生産緑地の2022年問題とは?
この1992年の生産緑地の指定から「30年」が経過し、その優遇と制約の期限が切れる(生産緑地の指定が解除される)のが2022年なのです。つまり2022年以降は、税制優遇を受けられない代わりに営農義務が無くなり自由に農地を宅地に転用することが可能になります。三大都市圏特定市(東京23区、首都圏・関西圏・中部圏の政令指定都市)の市街化区域には、「生産緑地」に指定されている農地が1万ヘクタール以上もあり、このうちの約8割が2022年期限となるとみこまれます。

生産緑地の2022年問題に対する政府の対策は?
政府は、この「生産緑地の2022年問題」に対して2017年の生産緑地法の改正という対策をとっています。生産緑地法の改正により「特定生産緑地指定制度」を創設し、従来の税制優遇措置を10年間延長しました。生産緑地に指定されている農地が新たに「特定生産緑地」に指定されると、固定資産税は引き続き農地としての評価が継続され、また相続税納税猶予制度の適用も継続されます(その分、宅地に転用できない行為制限も10年間延長)。また、10年経過後に再度指定を受ければ、さらに10年間優遇措置が延長されます。
この法改正による特定生産緑地の指定制度により、2022年問題が現実化すること(生産緑地が住宅用地として大量供給されることで不動産市況が混乱すること)は、避けることができると見込まれます。ちなみに、生産緑地を特定生産緑地に指定しなければ、生産緑地としての指定はそのままですが、固定資産税の課税は宅地並みに引き上げられる(急激な課税増額への緩和措置として、5年かけて20%ずつ段階的に引き上げられる)ことに加え、2022年以降に農地所有者に相続が発生しても、相続税の納税は猶予されないことになります。
また、政府によるもう一つの対策として、2018年には「都市農地貸借法」が成立。農地を他の農家に貸付たり、市民農園を経営する事業者に直接貸し付けることが可能になり、都市農地の多機能性が発揮できるようになると期待されています。

投稿者: las2021

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です